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こちらです。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20161101-00063965/
(以下は、コピーです)
産経新聞は10月29日付朝刊1面で「『二重国籍』 蓮舫氏を告発 市民団体」と見出しをつけ、市民団体が国籍法違反と公職選挙法違反の罪で蓮舫氏に対する告発状を東京地検に提出したと報じた。しかし、ここで告発された嫌疑は時効が成立している可能性が極めて高く、検察が捜査する可能性は限りなく低いとみられる(関連記事=「台湾人に中国法適用」報道は誤り〈解説:法務省の見解とは〉)。

今回の告発は産経新聞しか報じていない。告発状に記載された嫌疑について、次のように報じている。

告発状によると、蓮舫氏は17歳だった昭和60年1月に日本国籍を取得。国籍法に基づき、22歳になった平成元年11月28日までに日本国籍か台湾籍のいずれかを選択する義務があったにもかかわらず、今月7日に選択の宣言をするまで義務を怠った。また、16年7月の参院選(東京選挙区)に立候補する際、国籍選択の義務を果たしていないにもかかわらず、選挙公報に「1985年、台湾籍から帰化」と記載して虚偽の事実を公表したとしている。

出典:産経ニュース2016年10月28日「蓮舫氏を東京地検に告発 二重国籍問題で市民団体代表ら」

国籍法14条違反は不可罰、公選法違反の時効は3年

告発状を提出した市民団体「愛国女性のつどい花時計」岡真樹子代表に取材したところ、告発状の提供は断られたが、記載内容は産経新聞が報じたとおりで間違いないという。したがって、以下では、産経が報じた内容を前提に検証する。

告発とは、被害者等以外の第三者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示をいう。報道によれば、「国籍法違反と公職選挙法違反の罪で」と告発したという。

産経新聞2016年10月29日付朝刊1面

一つ目の国籍法違反として挙げられている事実は、蓮舫氏が22歳までに国籍を選択する義務があったにもかかわらず、その義務を怠ったというもの。しかし、国籍法には、重国籍者の国籍選択義務が定められているが(14条)、これに違反しても罰則はない。国籍法違反で処罰の対象となるのは、認知された子の国籍の取得(3条1項)の際に虚偽の届け出をした場合に限られる(20条)。蓮舫氏は10月7日に国籍選択の宣言を届け出たことを明らかにしており、それまで国籍法14条に違反した状態であったとの評価は免れないとしても、その事実をもって刑事「処罰」を求める「告発」はできない。

二つ目の公職選挙法違反として挙げられている事実は、蓮舫氏が2004年7月の参議院選挙に立候補した際、選挙公報に「1985年、台湾籍から帰化」と記載した行為が、公職選挙法の虚偽事項公表罪(235条1項)に当たるというものだ(注:産経新聞は元号表記なので、「16年」=「平成16(2004)年」を意味する)。しかし、この罪の法定刑は「2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」であるから、時効は3年である(刑事訴訟法250条2項6号)。時効の起算点は「犯罪行為が終わった時」であり、このケースで「選挙公報」記載行為が開票日まで継続していたと考えても、2004年7月11日ごろから起算されることになる。したがって、時効が成立していることになる。犯人や共犯者が国外がいた場合はその期間時効は停止するが、ずっと参議院議員である蓮舫氏や共犯者が9年以上海外にいたということはなかろう。

時効の問題を認識しながら記事化した疑い

いずれにせよ、産経が報じた「告発」は、事実関係が全てその通りだったとしても起訴できない。捜査開始、あるいはマスコミ用語でいう「立件」の見込みが限りなく低い事案である。そのことは、たった20条しかない国籍法の条文を確認し、12年前の選挙での行為が時効にかからないか確認すれば、すぐわかる。

いや、産経は事前にわかっていた可能性が十分にある。産経は、28日発行の「夕刊フジ」で大きな見出しで「スクープ!! 蓮舫 刑事告発」と前打ちしていたが、その記事の文末にちょこっと「時効や法解釈の問題などもあり、東京地検が告発状を受理するかどうか不明だ」と書いてあった。

しかし、産経ニュースサイトや紙面の記事には、時効の問題には一切触れていなかった(ニュースサイトの前打ち記事と告発後の記事、28日付大阪版夕刊7面、29日付東京版朝刊1面)。処罰対象とならない行為や一見して時効成立が疑われる12年前の行為を、告発人の言うがままに取り上げ、恥ずかしげもなく記事化していた。10月31日付で掲載された「二重国籍」問題検証記事でも、冒頭でわざわざ「告発状提出」の事実を紹介していたのである。

岡氏は、当機構の指摘に対し「おっしゃる通り国籍法には罰則がなく、虚偽事項公表罪は時効が3年です」と述べる一方、2013年ごろまで蓮舫氏のホームページに「台湾籍から帰化」という記載があったことも挙げていた。そのことが告発状に「犯罪事実」として明記されていたかどうかは定かでないでないが、その事実をもってしても虚偽事項公表罪には当たらない可能性が高い。

公職選挙法は「衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙」に適用される法律である(法2条)。選挙犯罪の一種である虚偽事項公表罪が成立するためには「当選を得又は得させる目的」をもって「公職の候補者若しくは公職の候補者」に関する虚偽事項を公表した場合でなければならない。蓮舫氏が参院選に立候補したのは2004年、2010年、2016年の3回で、2013年ごろに立候補の意思を示していた選挙はない。

結局、時効にかかる前で、「当選を得又は得させる目的」でした行為を問うのであれば、蓮舫氏のケースでいえば少なくとも第24回参議院議員通常選挙(2016年6月22日公示、7月10日投開票)の選挙期間中、またはそれに近接した時期における行為でなければならないと考えられる。選挙から3年も前のホームページの記載が、「公職の候補者若しくは公職の候補者」に関する選挙犯罪として問われることはあり得ない。

「告発」を報じるメディアの責任

以上のとおり、産経の報道を前提とする限り、今回の「告発状」は返却されるか、形の上で「受理」されても実質的な捜査は行われず不起訴で終わる可能性が極めて高いといえる。岡代表は東京地検に「受理」されたと発表しているが、検察実務に詳しい弁護士によると、検察はいったん告発状を受け取っても「預かり」とし、一見して見込みのない事案は返却する扱いをすることが多いという。(*)

もちろん、時効などの理由で刑事処罰を受ける可能性がなくても、国籍法が義務づけている国籍選択の宣言を行っていなかったことや説明の度重なる変遷について、蓮舫氏の政治的責任をどう評価するかについては議論があろう。ただ、そうした話と、刑事責任に問われるかどうか、犯罪捜査の対象となるかどうかは、別次元の問題である。

ところで、大手メディアでは、告発があった時点でその事実を報道することが時折みられる。だが、「告発状提出」の事実さえあれば、何でも報道してよいというものではない。

何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。(刑事訴訟法239条1項)

まず、告発は「誰でも」できる非常に緩い制度であるという点を認識する必要がある。主体に制限はなく、子供でも外国人でもよい。「犯罪があると思料するとき」であるから、起訴できるだけの確実な証拠がなくてもよい。虚偽の事実で告発すれば虚偽告発罪(刑法172条)で処罰される可能性があるが、逆にいえば、虚偽でさえなければ、素人が犯罪に当たると思いさえすれば告発できるというのが、法の建前なのだ。

しかし、メディアが「告発」報道をすれば、一般読者は、一定の嫌疑があり、捜査が行われ、起訴される可能性がある事案だから報道されたのだろうとの印象を抱くだろう。まさか「箸にも棒にもかからない」ような告発を報じているとは思わないだろう。よって、告発された側の社会的評価の低下は免れない。だから、メディアは、少なくとも告発内容に一定の嫌疑があり、捜査が行われる見込みがあるかどうかの裏付け取材をとった上でなければ、報道してはならないと考える。その際、告発された側の言い分や反論、法律家の意見をきちんと取材する必要がある。ましてや素人が告発人になっているようなケースは、特に慎重でなければならない。さらにいえば、「告発」報道をしたからには、その後の捜査の進展もフォローし、嫌疑がないことが判明したり、不起訴になったりしたら、「告発」報道と同じかそれ以上の扱いで報道すべきであろう。

メディアは素人ではないのだから、虚偽告訴でなくても「箸にも棒にもかからない」ような告発を報道すれば、名誉毀損の責任に問われることもあり得る。

産経新聞が今後、このたびの「告発」報道の後始末をどうつけるのか、注視していきたい。

(*) 国籍法上は「国籍取得」(3条)と「帰化」(4条以下)は、法概念上も手続き上も区別されている。蓮舫氏は「国籍取得」制度により日本国籍を取得したから、「台湾籍から帰化」という表記が正確さに欠けていたことは、確かである。しかし、一般的に「国籍取得」制度はなじみが薄く、「帰化」との違いを区別している人はそれほど多くないとも思われる。「広い意味で国籍取得も帰化も同じように日本人になったことを指すと思って使っていた」という蓮舫氏の弁明も、国会議員の見識としての評価はともかく、そうした認識や用語法はあり得ないことではない。したがって、私見ではあるが、「台湾籍から帰化」という表現が「虚偽」とまでいえるかは、かなり微妙なところだと思う。つまり、刑事裁判で言葉の解釈や認識(故意性)が争われることは必至で、そのときに裁判所がどう判断するかは予測困難だということだ。仮に時効が切れていなくても、検察がこのような微妙な事案をリスクをとって捜査し、起訴するだろうか。

(**) 時効の刑事訴訟法の規定について「205条2項6号」と記載していたのは「250条2項6号」の誤りでした。お詫びして訂正します。(2016/11/2 14:40)


楊井人文
日本報道検証機構代表・弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、平成20年、弁護士登録。弁護士法人ベリーベスト法律事務所所属。平成24年4月、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を立ち上げ、同年11月、一般社団法人日本報道検証機構を設立。



Posted by いざぁりん  at 05:07