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 漫画『深夜食堂』を原作にしたドラマがヒットしている。新作の映画も公開する。この物語のなにが支持されているのか。大ハマリしているコラムニスト・オバタカズユキ氏が魅力を語る。


 * * *

 一度知ったら、やめられないとまらない、のみならず何とも言えない愛おしさのような感情がわいてきて仕方のない作品がある。


 本日、11月5日より第2弾の映画が全国公開、それに先んじて10月21日からNetflixで第4部に相当する10話ぶんの新作ドラマが配信中の『深夜食堂』のことである。


 この一連の作品群の原作は、2007年から『ビックコミックオリジナル』での連載が続いている、基本10ページ(たまに20ページくらいになる)一話完結の同名のマンガだ。


 私がこの作品のファンになったのは昨年のことで、たまたま無料動画サイトでドラマを視聴。第1部10話ぶんを画質のよくない状態で観たのだが、あれよあれよとハマってしまい、「もっとちゃんとしたので観たい!」という欲求が抑え切れず、今年、ほぼこの作品のためだけにアマゾンプライムに入会したのだった。


 アマゾンでは現在、第1部~第3部の全30話のドラマと、2015年1月末に公開された第1弾の映画を楽しむことができる。他にもいくつかの有料動画配信サービスを使って観ることが可能だ。


 ドラマは1話あたり20分強、30話を一気に観ても、計600分強。10時間ちょっとだ。あっという間に観終わるから、構えずにトライしてほしい。


 原作は今のところ17冊のマンガ本が刊行されている。映画の第2弾と新作ドラマの動画配信がほぼ同時にスタートしたこともあり、既刊本も今は入手しやすい。ここは一気に大人買いといこう。


 私は、それらをすでに3~5回繰り返し読み、繰り返し観ている。そして、Netflixの10話をまとめて視聴、映画第2弾も試写会で観てきたところだ。


 試写会はスクリーンが小さかったので、映画はまた劇場で観ようと思っている。いまいちどじっくり楽しみたいというか、すべて観てしまったことが寂しいのだ。あー、もう終わってしまった……と、ちょっとした『深夜食堂』ロス状態にある。


 ドラマと映画は次があるかどうか、わからない。マンガ本の18冊目も発売は半年以上先だろう。とか考えると、生活の一部に大きな穴が開いたような気分になる。半年も待てないし、ドラマ第5部、映画第3弾がないだなんて耐えられない。ぜひ今回のものも大ヒットし、寅さんのような長寿シリーズになっていただきたい!


 自分でも中毒症状がひどいなあと呆れているのだが、この作品の何がどうしてこんなに愛おしいのか。


 話をまったくご存じない方も少なくないだろうから、ごく簡単に説明すると、作品の舞台は、新宿歌舞伎町のゴールデン街と思わしき飲食店街にある「めしや」という食堂。営業時間は、夜12時から朝7時頃まで。つまり真夜中メインなので、常連たちはみんな「深夜食堂」と呼んでいる。


 その店を、本名も経歴もまったくわからない、左目の上下に縦の切り傷がある作務衣姿の中年男「マスター」が一人で営んでいる。店内にはコの字型のカウンターに椅子が10脚ちょっと。隣席の客と肩と肩がすぐにぶつかるくらいぎゅーぎゅーの狭い店だ。


 営業時間のほかに特徴的なのは料理の頼み方。壁のメニューに書かれているのは、豚汁定食、ビール、酒、焼酎だけ。「あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよ、ってぇのがオレの営業方針さ」と、いつもマスターが言っている。


 関連レシピ本も複数出ているくらいだから、こう言っちゃナニかもしれないが、ものすごくおいしい料理が出てくるわけでもない。マスター本人も自信のある豚汁は旨そうだが、他に私が食欲をいたく刺激されたのは、とろろご飯くらいのものだ。


 とろろご飯が圧倒的インパクトをもって登場したのは第一弾の映画のときで、多部未華子演じるホームレス状態の若い女の子「みちる」が、空腹に耐えきれず深夜食堂に入ってきたら、先客がそれを食べていた。「みちる」も同じものを注文したのだが、とろろご飯のご飯は土鍋で一から炊く。「時間がかかるから」と小林薫演じるマスターが別のものを出した。


 その後、いろんなことがあって「みちる」は店の住みこみとして働き、お別れの際に「なんでも作ってあげるよ」と言うマスターに、「みちる」が頼んだのが、とろろご飯だったのだ。こんなに細かく説明している余裕はないのだけれど、あれは自分も今すぐ山芋をすりおろそうかと思った。そのくらい「みちる」のずるずるずるっという食べ方がおいしそうだった。


 ちなみに、その年の多部未華子は第25回日本映画プロフェッショナル大賞で、主演女優賞を獲得している。貧乏と絶望から這い上がろうとする「みちる」の演じ方も、野生動物のように躍動していた。あの名演を再びと願っていたら、今回の第二弾でも、福岡から上京してきて詐欺にあった老女のお世話をする「みちる」役でいい感じだった。ベテラン女優・渡辺美佐子の演技力に目を見張ったが、多部も決して負けていなかった。


 ……と話はズレたが、「めしモノ」として括られるほど、実は料理が人を惹きつける作品でもないのである。出てくるメニューも、焼肉定食、焼きうどん、トンテキ、オムライス、白菜と豚バラ肉の一人鍋など、ごく大衆料理的、家庭料理的なものばかりだ。ふだん使いにとても良さそうな店ではあるが、美味を求めてわざわざ行くところではない。


 では、私は何に惹かれたのか。ベタな表現ですまないのだが、あの世界観にやられたのだ。


 どんな世界がそこで展開されているのか。深夜食堂にやってくる客の多くが、ワケあり、ダメ人間、一人ぼっち、ニートにオタクにスケベにロクデナシなど、うまく生きていない人たちばかり。そういった人たちが、惚れたり腫れたりトラブったり、一騒動おこして一話完結、というのが『深夜食堂』なのだ。


 職業では、医師や弁護士、売れっ子シナリオライター、高名な料理評論家だって登場する。でも、みんなどこかに傷がある。傷が痛くて、夜中に深夜食堂で吹き溜まる。痛みを一人で抱え切れず、誰かに会いに来る。


 言ってみれば、『深夜食堂』は、帰る場所のない者たちが帰ってくる、かりそめの居場所なのだ。この店で酒は三本(三杯)までしか注文できない。酔いつぶれて痛みから逃げてはダメだからだ(というふうにマスターは考えたのだと私は思う)。


 そこは正直者たちの溜り場だ。常連たちの口の悪さに慣れれば居心地がいい。でも、ずっとそこに居られるわけではないことを、登場人物たちも観客たちもみんな知っている。もしそこに一体感が生まれることがあっても、それはまもなく消えるのだ。その儚い人間のあり方が、私は愛おしい。


 まあ、『深夜食堂』ってのは、そういうファンタジーなのだ。心があたたかくなる系ともちと違って、心にひりひり沁みる。そこに中毒性がある。


 台湾、韓国、中国でもヒットしているこの作品。Netflixでは190カ国同時配信だ。MBA取ってイエイみたいな人には通じないかもしれないが、ハマった外国人とは友達になれる気がしている。



Posted by いざぁりん  at 00:09