「政争の具」で王国に深い傷 英保守党、国民投票の誤算

いざぁりん

2016年07月01日 02:30

こちらです。
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欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国の国民投票は、多くの移民が暮らす英国社会や、「連合王国」を形づくる4地域の間に深い亀裂を生んだ。英国の与党・保守党内の政争の具とされた国民投票は、民意を刺激し、国内に癒やしがたい傷を残した。

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 「望んだ結果ではなかった」。国民投票で残留を訴え、敗北したデービッド・キャメロン首相(49)。27日、英下院での緊急演説で唇をかんだ。

 議場に、次期首相の最有力候補と目される保守党下院議員、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長(52)の姿はなかった。

 2人とも、名門私立イートン校からオックスフォード大学に進んだエリート。ジョンソン氏が先輩だ。

 ジョンソン氏は、離脱派の旗振り役として「主権を取り戻せ」と訴えた。

 かつて英紙のブリュッセル特派員として、欧州統合の機関の官僚主義を酷評してきたジョンソン氏。「非民主的で、無駄が多く腐っている」など、これまでもEU批判の発言はあった。

 だが今年2月下旬、人気政治家のジョンソン氏が、EU改革にとどまらず、さらに過激な離脱の主張を始めたのは人々を驚かせた。

 背景には、自らの存在感を高め、政敵を出し抜こうという思惑があったとみられている。

 ジョンソン氏本人は、国民投票で離脱派が敗れると予想していただろう――。保守党閣僚は、英紙にそう語った。敗れてもEU懐疑派が多い党支持層の間で株が上がれば、次の首相への可能性が増す。そんなシナリオを描いていたようだ。

 一方のキャメロン氏がEU離脱を問う国民投票の実施を打ち出した上で、残留を訴えたことにも政治的な思惑があった。

 2013年、国民投票の実施を表明。15年の総選挙の公約にも掲げた。

 13年当時、保守党内ではEUに権限が集中する状況に「EU懐疑派」の不満が募り、キャメロン氏の求心力を脅かしていた。また移民規制を掲げる英国独立党(UKIP)が保守党の支持層に食い込んでいた。

 「国民投票」を掲げることでUKIPを抑えられ、EUからも有利な条件を引き出せると踏んだ。EUから得た条件を手に国民投票で残留を勝ち取れば、EU懐疑派を抑え込めるとの計算もあったとされる。

 15年の総選挙は勝った。だが国民投票は敗れた。

 政治家たちの「賭け」と「誤算」は国論を二分し、国民の暮らしと世界経済を危機にさらした。

■ヘイト犯罪、国民投票後に急増

 移民問題が争点となった国民投票の後、英国で人種や民族の間の憎悪をあおる動きが表面化している。

 特に標的になっているのが、ポーランド人だ。

 26日午前、ロンドン西部のポーランド社会文化協会の建物で、人種差別的な落書きが見つかった。

 ロンドン警視庁の発表によると、当日早朝、フードを被った男1人が自転車で近づき、黄色いスプレーで落書きする様子が監視カメラに映っていたという。

 在英ポーランド大使館は27日、「ショックを受け、憂慮している」との声明を出した。警視庁は「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」として捜査を続けている。

 英国ポーランド人連盟のタデウシュ・ステンゼル議長(67)は朝日新聞の取材に、「こんなことがロンドンで起きたのは初めてだ。国民投票の結果が影響したのかもしれない。悲しい」と述べた。

 また地元報道によると、ロンドンの北約90キロの町ハンティンドンでは、「EU離脱 ポーランドの害獣はもういらない」と英語とポーランド語で書かれたカードが小学校周辺などでばらまかれたという。

 国家警察署長評議会によると、国民投票のあった23日から26日にかけてヘイトクライム専用窓口への通報は85件。4週間前の4日間に比べて57%増だった。

 ポーランドは2004年にEUに加盟。多くの人が英国に働きに来ており、英国家統計局の推計によると、14年時点で79万人が英国内に住む。外国出生者ではインドに次いで多く、EU域内からの移民では最多だ。国民投票を前にした移民を巡る議論の中でも、たびたび名指しされた。ネット上では、他国の人にも「国に帰れ」などの暴言が浴びせられている。

 パキスタン系2世のカーン・ロンドン市長は27日、「国民投票を口実に我々を分断しようとする、いかなるヘイトクライムやいじめにも立ち向かう」との談話を出した。またキャメロン氏も27日の下院での演説で、「私たちはヘイトクライムを支持しない。それらは根絶されなければならない」と発言した。

■「連合王国」分断の危機

 英国はもともと、国の中枢が集中するイングランドを中心に、自治政府を持つウェールズ、スコットランド、北アイルランドが緩やかにつながる「連合王国」だ。EU離脱が決まった結果、各地域が四分五裂しかねない状況にある。

 62%が「残留」に投票した北部スコットランド。約2年前に英国からの独立を問う住民投票が行われたが、否決された。だが英国のEU離脱決定で、再び独立を求める機運が高まっている。自治政府のスタージョン首席大臣は25日、独立を問う住民投票の再実施について「選択肢にある」と表明。シュルツ欧州議会議長と29日に会い、スコットランドがEUに残留する方策を話し合うという。

 55・8%が「残留」を支持した北アイルランドでも「英国からの離脱」を問う住民投票を求める声が上がる。隣国アイルランドへの併合を求める少数派のカトリック系住民と、英国の統治を望む多数派のプロテスタント系住民による対立が続いてきた。実際に住民投票が行われれば、衝突が再燃する懸念もある。

 離脱派が上回ったウェールズでも、英国からの分離独立派が血気盛んだ。ロイター通信によると、ウェールズ民族党のウッド党首は27日、「イングランドと一緒にされては困る」と述べ、会議を開いて今後の対策を練るとした。

 キャメロン首相は27日の演説で「EUとの交渉の準備には、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの自治政府を含める」と述べ、各地域の利益を考慮すると強調した。